概要

水素・アンモニア・次世代燃料は、電気だけでは置き換えにくい発電や重工業、長距離の輸送の排出を減らすための領域です。この領域では、燃料をつくり・調達する石油会社や産業ガス会社、海外から大量に運ぶための船や貯蔵設備をつくる重工メーカー、水素をつくる装置のメーカー、そして発電や車で燃料を使う企業を、一つの供給網として扱います。燃料を「つくる」「運ぶ」「使う」の三つが同時にそろわないと市場が立ち上がらないこと、そして作る費用を下げるまで国の支援が欠かせないことが、この領域の構造の特徴です。いま、国の価格差の支援制度などをきっかけに、実証から商用の供給網づくりへ移れるかが問われています。

含むもの

  • 水素・アンモニア・合成燃料の製造・調達・販売
  • 液化水素の運搬船・貯蔵設備などの輸送インフラ
  • 水を電気分解して水素をつくる装置(水電解装置)
  • 水素・アンモニアを使う発電・燃料電池車

含まないもの

  • 太陽光・風力の発電所(01 再生可能エネルギー発電で扱う)
  • 化学原料として使う一般的な産業ガス

構造と主要企業

  1. 01

    燃料の製造・調達・販売

    水素・アンモニア・合成燃料を、国内外でつくり、または調達して、需要家に届ける。石油会社や産業ガス会社が中心となる。

    ENEOSホールディングス、出光興産、岩谷産業

  2. 02

    運ぶ・ためるインフラ

    液化した水素を海外から運ぶ船や、受け入れ基地・貯蔵タンクをつくり、運営する。

    川崎重工業、岩谷産業

  3. 03

    水素をつくる装置

    再生可能エネルギーの電気で水を分解し、水素をつくる装置(水電解装置)を開発・製造する。

    シーメンス・エナジー

  4. 04

    燃料を使う技術(発電・モビリティ)

    水素やアンモニアを燃やすガスタービンや、火力発電所での混焼、燃料電池で走る車など、燃料を使う側の技術と事業。

    三菱重工業、JERA、トヨタ自動車

燃料をつくる企業、運ぶ設備をつくる企業、使う企業が別々のため、企業連合を組んで供給網を一体で立ち上げる形が多い。国内では、海外で製造した燃料を輸入する計画と、国内の需要地をつなぐ拠点づくりが並行して進んでいる。

コミュニケーションの課題と視点

この領域の競争の構造から、コミュニケーションで想定される課題と、考えるための視点を整理したものです。いずれも Relens の分析・仮説です。

  1. 01発電・製鉄・化学などの大口需要家

    「いつ、いくらで使えるか」が見えない

    背景

    水素・アンモニアは、化石燃料より製造と輸送の費用が高い。国は価格差を一定期間支援する制度を設け、供給網の案件を選び始めている。

    想定される課題

    需要家は価格と供給の時期が見えないと、設備の更新を決められない。供給する側も、需要が確定しないと投資を決められず、互いに待つ状態になりやすい。

    視点

    供給の開始時期、量、価格の考え方を、段階を区切った計画として示す。需要家との共同の検討や、長期の引き取りの合意を、進み具合とあわせて発信する。

  2. 02投資家・政策当局

    実証の話が、事業の話に聞こえない

    背景

    液化水素の海上輸送やアンモニアの混焼など、国の基金による大型の実証が続いている。

    想定される課題

    実証の成果を発表しても、いつ収益を生む事業になるのかが伝わらず、「補助金頼みの技術開発」と見られやすい。

    視点

    実証から商用化までの道筋と、費用を下げる目標と進み具合を、数字で継続的に示す。国の支援が終わった後の事業の形も語る。

  3. 03環境団体・一般の生活者

    「クリーンな燃料」への疑問

    背景

    化石燃料からつくる水素・アンモニアや、火力発電所での混焼には、排出の削減の効果を疑問視する意見がある。

    想定される課題

    「水素だから環境によい」という伝え方は、つくり方による違いを無視していると受け取られ、取り組み全体の信頼を損なうおそれがある。

    視点

    つくり方ごとの排出量(製造から使うまで)を開示し、二酸化炭素の回収・貯留をどう組み合わせるかを示す。移行の段階としての位置づけと、将来の目標を分けて伝える。

  4. 04海外の資源国・製造事業者

    日本は、買い手として選ばれるか

    背景

    欧州や韓国なども水素・アンモニアの輸入を計画し、海外の製造事業者との長期の契約を競っている。

    想定される課題

    需要の規模や制度の安定性が伝わらないと、海外の製造事業者にとって日本は優先度の低い買い手になりうる。

    視点

    国内の需要の見通しと、受け入れの拠点・輸送の技術を、まとまった提案として示す。企業連合として一体で発信し、長期の買い手であることを伝える。

  5. 05燃料電池車の購入を考える個人・運送会社

    車があっても、補給の場所がない

    背景

    燃料電池車は走行中に二酸化炭素を出さないが、水素ステーションの数が限られている。

    想定される課題

    車の性能を訴求しても、補給の不便さへの不安に答えられず、購入の候補に入りにくい。

    視点

    個人より先に、決まった経路を走るトラックやバスなど、補給の場所を計画しやすい用途での導入事例を示す。ステーションの整備計画と一体で伝える。

競合・提携・出資の関係

  • 提携3件
    • 川崎重工業⇄岩谷産業

      液化水素の供給網を共同で実証[1]

      川崎重工の子会社の日本水素エネルギーを幹事に、岩谷産業などと液化水素サプライチェーンの商用化実証に取り組み、川崎重工が運搬船などの大型設備を供給する。

    • 川崎重工業⇄ENEOSホールディングス

      液化水素の供給網を共同で実証[2]

      川崎重工の子会社の日本水素エネルギーを幹事に、ENEOSホールディングス傘下のENEOSなどと液化水素サプライチェーンの商用化実証に取り組む。

    • 出光興産⇄トヨタ自動車

      全固体電池の量産で協業[3]

      出光とトヨタは、バッテリーEV用の全固体電池の量産に向け、硫化物系の固体電解質の量産技術の開発やサプライチェーンの構築に共同で取り組む。

この領域の用語

グリーン水素・ブルー水素
再生可能エネルギーの電気で水からつくる水素がグリーン、化石燃料からつくり二酸化炭素を回収・貯留する水素がブルーと呼ばれる。
水電解装置
電気で水を水素と酸素に分ける装置。グリーン水素をつくるための中心の設備。
混焼
火力発電所で、石炭や天然ガスに水素やアンモニアを一部混ぜて燃やすこと。既存の設備を使って排出を減らす方法。
液化水素
水素をマイナス253度まで冷やして液体にしたもの。体積が小さくなり、船で大量に運べる。
価格差支援
低炭素の水素などと既存の燃料との価格差を、国が一定期間補う制度。供給網を立ち上げるための支援策。
合成燃料(e-fuel)
水素と回収した二酸化炭素からつくる液体燃料。今の車や飛行機の燃料の仕組みをそのまま使える。

出典

  1. 「液化水素サプライチェーンの商用化実証」がNEDOグリーンイノベーション基金事業で採択(新しいタブで開きます) ENEOS・岩谷産業・川崎重工業プレスリリース公開日 2021.08.26
  2. 「液化水素サプライチェーンの商用化実証」がNEDOグリーンイノベーション基金事業で採択(新しいタブで開きます) ENEOS・岩谷産業・川崎重工業プレスリリース公開日 2021.08.26
  3. 出光とトヨタ、バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始(新しいタブで開きます) トヨタ自動車プレスリリース公開日 2023.10.12